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2. アブシジン酸受容シグナル伝達を制御する物質の創出

ABAと同様にABA受容体に結合するけれども,受容体の活性化を誘導しない物質(アンタゴニスト)を作っています。この物質を使うことにより,ABAの機能を一時的にOFFにすることができます。

ABAは植物が生命を維持するのに必須の物質ですが,農業という観点から見ると,その作用は必ずしも良いことばかりではありません。いくつかの植物(特に双子葉)では,ある温度以上になると発芽が抑制されます。例えば,モデル植物のシロイヌナズナは通常22℃で良好に発芽生育しますが,温度を上げていくと徐々に発芽が遅くなりはじめ,30℃を越えるとなかなか発芽してこなくなります。これは,ABAの生合成が促進されてジベレリン(GA)内生量が低下するためだとされています。乾燥や低温によって花粉の形成が阻害されるのもABAが原因です。また気孔は,乾燥だけでなく,高温や強光下でも閉じます。気孔が閉じると二酸化炭素を取り込めず,光合成ができなくなります(光合成は強光によって生じた活性酸素によっても阻害されます)。たとえ水が潤沢にあっても,高温だったり日光が強すぎたりすると,農産物の収量が低下してしまうわけです。だからといって,遺伝的にABAの生合成を抑えたり,ABA応答の効率を下げたりすると,ストレスに弱い植物になってしまいます。必要な時にだけABAの活動を止めることができるなら,それが一番良いのです。こういう時こそ,化合物が有効です。

遺伝子組換えに対する化合物のアドバンテージは,時期と強度の調節ができることと,可逆性です(もちろん良いことばかりではなく,従来の農薬と同様,副作用を完全にゼロにすることは難しいですし,環境負荷や人体への影響は常に意識しておくべきことです)。ABA内生量を下げるか,ABAシグナル伝達の効率を落とすかすれば,ABA応答のレベルが下がります。前者は,ABA生合成を阻害するかABA代謝不活性化を促進すれば達成できます。つまり,生合成酵素を阻害するか代謝不活性化酵素を活性化すれば良いわけです。化学的に酵素を直接活性化するのはなかなか難しいのですが(チャレンジングなテーマです),阻害なら割合簡単です。実際,ABA生合成の阻害剤はいくつか知られています。ただし,フルリドンやノルフラゾンのように,かなり上流の酵素(カロテノイド生合成酵素phytoene desaturaseおよび ζ-carotene desaturase)を阻害してしまうと,それだけ副作用も大きくなりますので,これらの薬剤を使った実験には注意が必要です。ABA生合成に対してより特異的なのは,9-シス型のエポキシカロテノイド(9-cis-violaxanthinと9'-cis-neioxanthin)を切断してC15のxanthoxinを生成する酵素(nine-cis-epoxycarotenoid dioxygenase,NCED)の阻害剤で,これまでにabamineSG(Kitahata et al. Bioorg Med Chem 2006, 14, 5555-5561)とSLCCDI(Boyd et al. Bioorg Med Chem 2009, 17, 2902-2912)が報告されています。一方,ABAシグナル伝達の効率を落とす方法については,私たちの研究グループが最近成功しましたので,以下詳しく説明します。


(1) ABA受容体の構造と機能

i. ABA受容体遺伝子の同定

ABA受容体についてはかなり古くから研究されていましたが,その実体が完全に明らかになったのはつい最近のことです。1970〜1990年代の研究では,放射性標識や蛍光標識,あるいはマイクロインジェクションなどの手法を使って,植物細胞のどこでABAが認識されるのかが調べられました。標識法で調べると,細胞膜の外側で認識されているような結果が得られましたが,マイクロインジェクション法で調べると,細胞膜の外側だったり細胞内だったりと,実験の方法によって異なる結果が得られました。当時,気孔を閉じさせるのと開くのを阻害するのとでは受容体が違うのではないかとか,様々な議論がありましたが,結局のところはっきりしたことはわかりませんでした。ちなみに,ABAは分子量264の小さな有機酸ですので,比較的pHが低いところでは,カルボキシ基が非解離型(-COOH)をとる割合が増えて脂溶性が高くなるため,細胞膜を透過できますが,pHが中性以上になってくるとほとんどが解離型(-COO-)となってしまい,細胞膜を透過するのは難しくなります。したがってABAは,その物理化学的な性質から受容部位を限定することはできず,外でも内でも,どちらに受容体があってもおかしくない性質の分子なのです。

そうこうしているうちにミレニアムを迎え,シロイヌナズナの全ゲノム解析が報告されてから6年後の2006年に,ついにABA受容体を同定したという論文が Nature に報告されました。大変興味深いことに,その本体は花成を促進するFCAというRNA結合タンパク質でした。これを皮切りに,次々とABA受容体に関する論文が出てくる事態となりましたが,2008年に最初の報告が取り下げられてしまい(筆頭著者の捏造だとされている),その後に報告されたもの(CHLHおよびGCR2)もコンセンサスを得ることはできず,ABA受容体は依然なぞのまま2009年を迎えました。そしてこの年,ようやく真のABA受容体が同定されたのです。

ABA受容体本体が不明の間も,その下流因子の研究は着実に進んでおり,Mg2+およびMn2+依存性のセリン-スレオニンホスファターゼ タイプ2C(PP2C)というタンパク質脱リン酸化酵素がABAシグナルの抑制因子(負の制御因子,ネガティブレギュレーター)として重要な役割を果たしていることが明らかになっていました。この酵素の周辺が活発に研究され,Maらは酵母ツーハイブリッド(Y2H)法によって,PP2Cの一つであるABI2と相互作用するタンパク質を見出しました。シロイヌナズナには類似タンパクが14種類あり,これらを追求した結果,ABA受容体として機能していることが明らかになったため,このタンパク質ファミリーをRCAR(regulatory component of ABA receptor)と名付けて Science に報告しました(Ma et al. Science 2009, 324, 1064-1068)。一方,Parkらは,ABAに似た作用を示す合成化合物pyrabactinに抵抗性を示すシロイヌナズナ突然変異体の原因遺伝子を同定し,PYRABACTIN RESISTANCE 1PYR1)と名付けました。PYR1と相同性の高いタンパク質は他に13種類あり,これらをPYL1-13(PYR1-like protein 1-13)と名付けてPYR1とともに機能を追求したところ,PYL13を除く13種類がABA受容体として機能していることが明らかになり,やはり Science に報告しました(Park et al. Science 2009, 324, 1068-1071)。実はRCARとPYR/PYLは全く同じタンパク質であったため,これらはまとめてPYR/PYL/RCARと表記されますが,論文によっては何れか一方だけが用いられることもあり,また単にPYL(あるいはPYLs)とだけ表記される場合もあります。ここではPYLと表記することにします。少し面倒なのは,RCARに振られた番号とPYLのそれとがまったく一致していない点です。

PYR1 = RCAR11
PYL1 = RCAR12
PYL2 = RCAR14
PYL3 = RCAR13
PYL4 = RCAR10
PYL5 = RCAR8
PYL6 = RCAR9
PYL7 = RCAR2
PYL8 = RCAR3
PYL9 = RCAR1
PYL10 = RCAR4
PYL11 = RCAR5
PYL12 = RCAR6
PYL13 = RCAR7

さて,こうしてABA受容体が同定されたわけですが,PYLは細胞質に存在する可溶性のタンパク質です。1990年代までに議論されていた"内か外か?"の問題に決着が付いたということなのでしょうか? 最近の研究で,シロイヌナズナのPYLの6重変異体 pyr1 pyl1 pyl2 pyl4 pyl5 pyl8 にはほぼABA感受性がないことがわかりました。つまり,PYLの機能を補填できるタンパク質を少なくともシロイヌナズナは持っていないことになります。決着はついたかに思われますが,実はPYLが報告された2009年に,膜貫通型のタンパク質GTG1とGTG2がABA受容体ではないかという報告もありました(Pandey et al. Cell 2009, 136, 136-148)。いわゆるGタンパク共役型受容体のような構造をとっているのではとのことなのですが,一般的な7回膜貫通ではないのと(8〜9回と予想),他生物のホモログがゴルジ体に存在するイオンチャネルであること,シロイヌナズナでもゴルジ体と小胞体に局在しているらしいこと,下流因子とのつながりが明らかになっていないことなどから,ABA受容体としてのコンセンサスは得られていません。プロテオーム解析から,ABA応答に関連するタンパク質の約70%がGTGとも関連があるという報告もあり,ABAシグナル伝達に某か関係していそうなのですが,はっきりしたことはわかっていません。なお,PYLのホモログは他の植物でも見出されており,PYL経路が高等植物に共通したABA受容シグナル伝達経路であるのは間違いなさそうです。ただし,いずれの植物でもかなりの機能重複が見られており,なぜこれほど多くの遺伝子が必要なのか,役割分担があるのかどうかなどについて,いずれもはっきりとはわかっていません。いずれにしても,13重変異体など作るのは困難ですので,ことPYLに関しては,化合物を使った制御しか考えられないと言えます。


ii. PYLの構造とABA受容機構

PYLは200ちょっとのアミノ酸からなる比較的小さなタンパク質で,STARTタンパク質に分類されます。動物ではSTARTタンパク質は脂質の輸送などに関係するらしいのですが,植物でなぜABAの受容体として機能するようになったのかは不明です。遺伝子の同定と同じ年に結晶構造が Nature に3つ報告されたのですが,これを皮切りにしてその後1年あまりの間におびただしい数の結晶構造が報告される事態となりました。このころ,文献のメールアラートを見て「え?また違うグループからPYLの結晶構造が出たの?」というのが続いたのを覚えています。私は結晶の専門家ではありませんのでわかりませんが,PYLは非常に結晶化しやすいタンパク質なのかもしれません。

2000年代に入ってから,植物ホルモンの受容体が次々と結晶化され,現在(2014年4月)までに,ABAに加えて,オーキシン,ジベレリン(GA),ジャスモン酸,ブラシノステロイド,およびストリゴラクトンの受容体の構造がそれぞれ明らかになっています。これらのホルモンに共通するのは,直接的もしくは間接的にタンパク質間相互作用を誘導する因子として機能している点です。オーキシンやジャスモン酸,ブラシノステロイドのように,もろに分子接着剤として機能するものもあれば,ABAやGAのように受容体の構造を変化させることでタンパク質間相互作用を誘導するものもあります。GAの受容体GID1については,その変化がどのようなものかがわかっていませんが(GAが結合していない状態の結晶構造が不明のため),ABAの受容体PYLに関しては明らかになっていますので,詳しく説明します。

PYL1

上にPYL1(左)とPYL1-ABA複合体(右)の結晶構造(PDB code: 3KAY, 3JRS)を示しました。真ん中は両者の重ね合わせです。人によって結晶構造を示す方向が変わりますが,受容体に結合したABA(シアンで示しています)が,平面構造で描くときの向きに近くなるように,つまり6員環が左,ジエンカルボン酸側鎖が右になるようにしています。これを見ると,gateと書いた付近の構造がABAの結合によって大きく変化しているのがわかると思います。ゲート付近を拡大してみましょう。

PYL1

左がゲートが開いた状態,右がABAが入ってゲートが閉じた状態です。しかし左をよく見るとポケットの入口がアルギニンArg,アスパラギンAsnおよびセリンSerの極性側鎖でふさがれているように見え,文字通りにゲートが開いている(ABAが通れるほどぽっかりと口が開いている)わけではないことがわかります。右を見ると,ABAが入ってゲートのかたちが変わり,これらの極性側鎖は外側を向いてしまっているのがわかります。両者の中間ぐらいの構造があれば良いのですが,それはありませんので,この2つの構造から,ABAの結合によって何が起こったのかを推測してみましょう。

PYL1

さらにゲート付近を詳しく見てみると,入口だけではなく,ポケットの奥にも極性残基が並んでいるのがわかります(赤字で示してあります)。一番右側のリジンLysは非常に重要な残基で,これの側鎖アミノ基がABAのカルボキシ基と塩橋を形成してポケット内にABAを固定します。あくまでも想像ですが,「ポケット入口付近の極性基がABAの側鎖カルボキシ基を捕まえ,奥に並んだ極性基がABA側鎖を奥へと誘い引き込んでLysで固定する。ABAが奥に引き込まれるにしたがって,疎水性の高い6員環部がポケット入口付近に接近してくると,極性基は外側へはじかれ,逆に疎水性アミノ酸が内側に引き込まれてゲートがめくれ上がってABAを閉じ込める」―そんな動画が頭に浮かびます(動画はありません,あしからず)。

PYR1

リボン表示で見ているとわかりにくいですが,溶媒接触表面を表示すると,ABAがPYLにすっぽりと包み込まれているのがよくわかります。上の図はPYR1-ABA複合体結晶構造(3K90)の溶媒接触表面を表示したもので,ピンク色がPYR1の,青色がABAの表面です(見やすくするために,切り口を表示していますので,一部構造が切れています)。唯一,側鎖の付け根のヒドロキシ基の方向のみ余裕がある以外は,ポケットの内壁の表面とABAの表面との間にほとんどすき間がありません。1970〜1990年代にかけて非常に多くのABA構造アナログが合成されましたが,ABAよりも生物活性が上昇したアナログは極わずかであった(しかもそれらは代謝不活性化の遅れによるもので受容体に対する親和性が上がったわけではない)ことと大変よく整合しています。

また,この結合様式から過去の研究の戦略の妥当性を査定できます。かつて,ABA受容体を標識したり,アフィニティを利用してスクリーニングしたり,という試みが行われましたが,そのために使われたのは,ABAの環部ケトンや側鎖カルボキシ基を利用してかなり大きな置換基を付けた化合物でした。この図を見れば,そんな大きなものが付いていたら受容体にはとうてい結合できないことが容易にわかります。にもかかわらず,それらのアナログにはABA生物活性があると報告されています。植物体内でABAが遊離した可能性もありますが,その可能性を考えにくい修飾方法をとっているアナログもあり,釈然としません。


(2) PYL阻害剤の設計戦略

i. PYL-ABA複合体の機能

PYR1

PYLの阻害剤を設計するには,PYL-ABA複合体の機能を知る必要があります。ABAが結合して構造が変化することで,PYLはPP2Cに対する親和性を獲得します。PP2CはABAシグナル伝達の下流因子を脱リン酸化して不活性化することでABAシグナルを抑制しています。ストレスなどによって内生ABA量が上昇すると,PYL-ABA複合体の量も増え,これがPP2Cの触媒部位付近に結合して物理的にPP2Cの脱リン酸化活性をブロックします。

PYR1

PYLがPP2Cに結合するためには,ゲート閉鎖型のコンホメーションをとっていなければなりません。シロイヌナズナのPYLは,ABAと結合していない時に,ゲートオープン型で二量体を作っているもの(PYR1,PYL1-3)と,ゲートオープン型と閉鎖型の単量体平衡混合物(ただし平衡はゲートオープン型に大きく偏っている)になっているもの(PYL4-12)がありますが,ABAが結合するといずれもゲート閉鎖型の単量体になります。ゲート部分のセリンSer側鎖は,ゲートオープン時には内側を向いていますが,ゲート閉鎖時には外側を向き,これがPP2Cの触媒部位にあるグルタミン酸Glu側鎖と相互作用してその機能を阻害します(上図はPYL1とPYL1-ABA-ABI1複合体(3JRQ)を重ね合わせたもの。ABI1はシロイヌナズナのPP2Cの1つ)。PYLのゲート部分とPP2Cが相互作用するので,ABAはPYLのゲートの上にさらにPP2Cが覆い被さってきてフタをされて閉じ込められることになります。
PYR1
PYL-ABA-PP2C複合体の全体像を見てみると,相互作用しているのはSer-Gluだけではないことがわかります。特に,PP2CのトリプトファンTrpがPYLに突き刺さっているのが特徴的です。

PYR1

この部分をさらに詳しく見てみると,上図のように,PP2CのTrp側鎖インドール環は,水分子を介して間接的にABAの環部カルボニル酸素と相互作用(水素結合)しており,さらにPYLのフェニルアラニンPhe側鎖とも相互作用(π-π相互作用)していることがわかります。

PYR1

このようにABAは2つのタンパク質に閉じ込められます。PYL-ABA複合体からのABA解離定数は約1 μMですが,PYL-ABA-PP2Cからのそれは約0.1 μMですので,3者複合体を作ることでABAがより強く閉じ込められることがわかります。

さて,こうした状況において,ABA受容体PYLの効果的な阻害剤をどのようにデザインすればよいでしょうか?


(2) ABA受容体PYLアンタゴニストの創出

i. デザイン

ある受容体の活性化剤(アゴニスト)や阻害剤(アンタゴニスト)を見出す方法はいくつかあります。既存のあるいは新たに作成した化合物ライブラリーからスクリーニングする,天然もしくは合成の既知リガンドを改変する,受容体の構造を基に全く新規に設計する(de novo design)など,それぞれ一長一短があり,どれがベストかはケースバイケースです。これらを組み合わせる場合もあります。私たちの研究室では,ABA構造活性相関の知見を多く蓄積しており,また実際に多くのABAアナログを保有していることもあって,天然のPYLアゴニストであるABAを親化合物とし,PYL-ABAおよびPYL-ABA-PP2C複合体の結晶構造を参考にして構造改変を行うやり方で,PYLアンタゴニストを創出することにしました。

ABAの構造アナログとしてPYLアゴニストをデザインすることの利点は,天然アゴニストが原型なので,PYLに対する高い親和性を得やすいこと,副作用が出にくいこと,環境負荷や人体に対する影響も小さいことなどです。当然ですが,構造改変の度合いが大きくなればなるほど,こうした利点は失われていきますので,ピンポイント且つ最小限の改変で最大の効果を得られるようにしないといけません。また,多くの場合,天然分子を合成するのは手間とコスト,時間がかかりますので,いかに簡便に合成できる形にデザインするかも大切です。いくら効果の高い化合物であっても,合成のスペシャリストが何ヶ月あるいは何年も取り組まないと合成できないようなものだと,研究あるいは農業の場で実用化することは不可能です。

こうした点を頭に入れた上で,デザインの方向性を探っていきます。PYLアンタゴニストに求められる機能は次の2つです。

1.PYLに高い親和性をもつ(ABAと同等かそれ以上)。
2.PYL-PP2C相互作用を誘導しない(妨害する)。

この2つを同時に実現できればOKです。しかしここでいきなり問題にぶつかります。これまで見てきたように,ABAはPYLにほぼ完全にピッタリと閉じ込められてしまいます。ABAのどこかに置換基を入れると,ポケットにピッタリと収まらず,ゲートを閉鎖できなくなります。約1 μMという解離定数から考えて,PYL-ABA間の相互作用は,ゲートが閉鎖した状態でさえそれほど強くないので,ゲートを閉鎖しなければさらに結合は弱くなってしまうでしょう。しかしゲートを閉鎖させるような化合物は,PYL-PP2C間相互作用を誘導してしまいますので,PYLアンタゴニストではなくてPYLアゴニストになってしまいます。2つの条件を同時に満たすのはかなり困難に見えます。何か策はないでしょうか? 結晶構造を画面上でグルグル回しながら眺めていると,何か良いアイデアが浮かぶでしょうか? 下の動画は,PYR1-ABA複合体結晶構造(3K90)の溶媒接触表面を描いたものです。


どの方向から見ても,中のABAが見えません。ABAが完全に閉じ込められているのがよくわかります。もし報告された結晶構造がこれだけだったら,あきらめていたかもしれません。しかし,このとき別グループから同時に報告されたPYL1-ABAの結晶構造(3JRS)も同じように見てみると,中のABAが見えることがわかりました。

見やすくするために結晶を切ってみたのが下の図です見やすくするために結晶を切ってみたのが下の図です。ABAの6員環の3'位方向と4'位方向に外に抜ける穴があるのがわかります。ゲートの閉まり具合とゲート付近のアミノ酸側鎖のちょっとした方向性の違いで,この2つの穴は大きくなったり小さくなったり,場合によってはなくなってしまったりします。結晶構造はスナップショットにすぎず,実際には構造はかなり揺らいでいるので,どのPYLでもこれらの穴は大きくなったり小さくなったりしているのだろうと思います。

PYL1

この2つの穴は,ゲートの閉鎖にともなってできたものです。ゲート付近はPP2Cと相互作用しますから,これらの穴の出口はPP2Cとの接触面になっているはずです。実際に,PYL1-ABA-ABI1複合体(3JRQ)を見ると,2つの穴の先は確かにPP2Cに通じているのがわかります。
PYL1

抜け穴が見つかり,且つその先にはPP2Cがくっついている・・・とすれば,抜け穴からうまく障害物を突き出すようなことができれば,PP2Cはくっつけなくなるのではないでしょうか? そうなれば,2つの条件を同時に満たせそうです。あまりにもシンプルすぎて「まー確かにそうなんだけど,そんなにうまくいくはずないでしょう」とは思ったのですが,ものは試し,世の中なんでもやってみないことにはわからないものですし,ダメ元でトライしてみることにしました。(続く・・・以降は論文がpublishされてから書きます)

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