教員・研究案内

遺伝子工学研究室

富田 因則

 遺伝子工学研究室では、遺伝学、ゲノム科学、分子生物学の研究手法によって、資源植物から環境負荷に耐えて生産性を高める新規の遺伝子を単離して、機能を解明する基礎研究から、ゲノム育種による新品種開発まで社会に還元する研究を推進しています。研究成果は、遺伝学、ゲノム科学、生物工学、進化学、細胞遺伝学、植物学、育種学の分野にわたる国際誌で公表し、遺伝子、品種等のイノベーションを知的財産化しています。遺伝子工学研究室は、グリーン科学技術研究所のグリーンバイオ部門とゲノム機能解析部 で研究を展開しています。

I ムギ類におけるゲノム特異的トランスポゾン
 不良環境に強いコムギの近縁資源植物(ライムギ、チノパイラム他)はゲノムサイズが大きく、その主要構成要素はトランスポゾンです。そこで、ゲノム特異的に増幅し、転移活性をもつトランスポゾンをDNAマーカーや変異誘発などの分子育種のツールとして利用するため、近縁ゲノムに特異的なトランスポゾン様因子Revolver、Superiorを単離しました。
 まず、ライムギからコムギと共通するDNAを削除する方法によって、ライムギ特異的配列を単離し、続いて長鎖のDNAライブラリーを作製して全塩基配列を解読した結果、これまで生物界にない独特の構造を示す新しいカテゴリーのトランスポゾンRevolver (進化をもたらす因子)を見出しました。さらに、Revolverの転移酵素様cDNAや多数の非自律因子 を単離し、バイオインフォマティクス的解析によって、その遺伝的多様性を明らかにしました。Revolverトランスポゾンはライムギゲノムに1万コピー存在し、コムギの祖先種でも発現していますが、進化を経てコムギでは消失しています。さらに、コムギの起源地に近いイスラエルの環境条件が劇的に異なる生態系や合成コムギの雑種当代において、著しい量的変動を示すことから、Revolverの可動性とゲノムの多様化に寄与していることが示唆されました。
一方、マルチカッターEcoO109Iの利用により、新規のトランスポゾン因子を効率よく単離しました。以上のような、コムギになく、近縁種に特異的なトランスポゾン様因子をDNAマーカーとして利用する方法を開発し、生物・環境耐性遺伝子を染色体工学的に付加したゲノムをFISH法等で決定しました。日本育種学会でトランスポゾンのシンポジウムを主催しています。

II ゲノミクスによるイネの有用遺伝子の単離と集積 穀類の短稈化は“緑の革命”をもたらしましたが、イネの短稈遺伝子はsd1のみに依存しているため、突然変異体から新規の短稈遺伝子を探索しました。F2における短稈のメンデル比からの歪みと不稔の発生から、新規の有望な短稈遺伝子d60を発見するとともに、d60が配偶子致死遺伝子galと共存する花粉では第一分裂後に栄養核が消失し、精核の第二分裂を経て配偶子致死となる特異的な遺伝様式を解明しました。galは日印品種を問わず普遍的に存在し、d60galから配偶子致死作用のないGalへの同時変異なくして解明然界では得られなかった遺伝子であることを明らかにしました。DNAマーカーによるマッピングでd60Galを第2、第5染色体に位置づけ、さらに、マップベースドクローニングでd60のDNA本体を単離し、遺伝子組換えによる機能相補検定によりd60の機能を解明しました。一方、ゲノム育種法によって、軒並み倒伏害を被っている主要品種品種コシヒカリに初めてsd1d60を移入し、倒伏に強く、多収の農林水産省登録短稈コシヒカリ型品種「ヒカリ新世紀」や「ミニヒカリ」を開発しました。「ヒカリ新世紀」は新潟県ほか14府県で産地品種銘柄に設定され、日本育種学会で初の短稈コシヒカリとして記者発表されました。さらに、JST支援により、地球温暖化対策として短稈コシヒカリにゲノム育種法で晩生遺伝子を付与し、品種登録を出願しました。

以上の成果に引き続いて、現在、次の研究を進めています。
(1)地球温暖化とグローバル化対策のための新規の大粒、短稈、早晩生遺伝子の機能解明トその集積 地球温暖化、震災による塩害・放射能汚染等で植物を生産する環境はダメージを被る一方です。加えて、TPPにより農産物市場がグローバル化すると、海外産のコシヒカリも流入することになり、日本農業はかつてない危機に直面しています。この状況を打開する方策は、悪化する環境に適応する能力を持ち、かつ、今までにないスペックを持つ品種、すなわち低コスト多収性でコシヒカリを超える品種を開発することです。
 遺伝子工学研究室では、突然変異体等から品種改良に役立つ低コスト多収性(耐倒伏性、大粒化、高バイオマス)、適応性(早晩性)、ストレス耐性(高温登熟、耐塩性)などの有用遺伝子をゲノム科学と遺伝子工学の手法で探索し、機能を解明します。さらに、それら遺伝子をゲノム育種によって集積し、新時代を支える植物新品種を開発します。さらに、放射能汚染対策として、植物工場で年4回栽培可能な超極早生で多収性のイネをゲノム育種します。また、世界的な食糧危機を迎える中、晩生遺伝子の集積によって、カンボジアなど低緯度地帯でも栽培できるジャポニカ米の開発を進めています。
私たちは、ミクロな遺伝子研究の成果を、育種生物工学によって品種開発というマクロな社会貢献として結実させます。これが農業を進歩させるグリーンイノベーションです。
(2)新規トランスポゾンによる機能ゲノム研究
植物ゲノムの大方を占めるトランスポゾンはゲノム変異のみならず、ノンコーディングRNAとして発現調節、個体発生等の生命現象進化に重要な役割を果たしています。ゲノム機能という観点から、生物界に無い新規トランスポゾンについて、特定遺伝子座の種間の動態、由来するマイクロRNAの単離、そのターゲット遺伝子の解析、RNAiノックダウンによる形質発現効果等を解明します。また、トランスポゾンディスプレイによるDNAマーカー作出や、遺伝的改変のツールとして機能ゲノム研究を行います。
(3)生物・環境ストレス耐性遺伝子の単離と機能解明
 外来ゲノムに存在する線虫、塩害等の生物・環境ストレス耐性に関する新規の遺伝子を、トランスクリプトームやタンパク質の発現プロファイリング解析によって検出・同定し、形質転換系で機能を解明します。 (4)環境ストレスや種形成における植物ゲノムの動態と創生  乾燥地、湿地、冷涼地など峻厳多様な生態系に適応し、遺伝的変異に富む植物ならびに人為的なゲノムの倍数化により新種形成途上の植物を用いて、環境ストレスやゲノムの合体によるトランスポゾンの発現誘導と転移、種形成との関わりを解明します。



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最近5年間の研究実績
[著書・学術論文]
富田因則(*):植物のゲノム育種.新バイオの扉 “生物工学の広がり“(高木正道・池田友久 編ISBN0-), 裳華房, 東京, pp. – (2013)
Naito, Y., and Tomita, M.: Identification of an isogenic semidwarf rice cultivar carrying the Green Revolution sd1 gene using multiplex codominant ASP-PCR and SSR markers. Biochemical Genetics 51:DOI 10.1007/s10528-013-9584-y (2013)
Ma, Y.-Z., and Tomita, M.: Thinopyrum 7Ai-1-derived small chromatin with barley yellow dwarf virus (BYDV) resistance gene integrated into the wheat genome with retrotransposon. Cytology and Genetics 47(1):1-7 (2013)
Tomita, M.: Combining two semidwarfing genes d60 and sd1 for reduced height in 'Minihikari', a new rice germplasm in the 'Koshihikari' genetic background. Genetics Research Cambridge 94(5):235-244 (2012)
Tomita, M.: Recent patent on Revolver-2: a novel transposon-like gene useful for chromosome tags of rye. In New Developments in Chromatin Research(Eds. Neil M. Simpson and Valerie J. Stewart, ISBN 978-1-62081-816-9), Nova Science Publishers, New York, pp.161-176 (2012)
Tomita, M., and Seno, A.: Rye chromosome-specific polymerase chain reaction products developed by primers designed from the EcoO109I recognition site. Genome 55(5):370-382 (2012)
Tomita, M., and Matsumoto, S.: Transcription of rice Green Revolution sd1 gene is clarified by comparative RNA diagnosis using the isogenic background. Genomics and Applied Biology 2(5):29-35, doi: 10.5376/gab.2011.02.0005 (2011)
Tomita, M., Okutani, A., Beiles, A., and Nevo, E.: Genomic, RNA, and ecological divergences of the Revolver transposon-like multi-gene family in Triticeae. BMC Evolutionary Biology 11:269, doi:10.1186/1471-2148-11-269 (2011)
Tomita, M., and Tanisaka, T. Long-culm mutations with dominant genes are induced by mPing transposon in rice. Hereditas 147(6):256-263 (2010)
Tomita, M., Asao, M. and Kuraki, A. Effective isolation of retrotransposons and repetitive DNA families from the wheat genome. Journal of Integrative Plant Biology 52(7):679-691 (2010)
Tomita, M. and Misaki, M. KpnI-repetitive DNA element tandemly clustered on subtelomeric regions of Triticeae genome. Caryologia 63(1):91-98 (2010)
Tomita, M. Revolver and Superior: novel transposon-like gene families of the plant kingdom. Current Genomics 11(1):62-69 (2010)
Tomita, M., Noguchi, T. and Kawahara, T. Quantitative variation of Revolver transposon-like genes in synthetic wheat and their structural relationship with LARD element. Breeding Science 59(5):629-636 (2009)
Tomita, M. Introgression of Green Revolution sd1 gene into isogenic genome of rice super cultivar Koshihikari to create novel semidwarf cultivar 'Hikarishinseiki' (Koshihikari-sd1). Field Crops Research 114(2):173-181 (2009)
Tomita, M., Kuramochi, M. and Iwata, S. Superior: a novel repetitive DNA element dispersed in the rye genome. Cytogenetic and Genome Research 125(4):306-320 (2009)
Tomita, M., Akai, K. and Morimoto, T. Genomic subtraction recovers rye-specific DNA elements enriched in the rye genome. Molecular Biotechnology 42(2):160-167 (2009)
Yuan, W.-Y. and Tomita, M. Centromeric distribution of 350-family in Dasypyrum villosum and its application to identifying Dasypyrum chromatin in the wheat genome. Hereditas 146(2):58-66 (2009)
富田因則. 半矮性遺伝子sd1を導入した短稈コシヒカリ型の水稲品種‘ヒカリ新世紀’. 農業および園芸84(1):58-66 (2009)
伊田黎之輔・富田因則. 水稲コシヒカリ同質遺伝子品種ヒカリ新世紀の耐倒伏性. 日本作物学会紀事77(4):505-510 (2008)
Tomita, M., Shinohara, K. and Morimoto, M. Revolver is a new class of transposon-like gene composing the Triticeae genome. DNA Research 15(1):49-62 (2008)
富田因則:反復DNAのクローニング法.クロモソーム“植物染色体研究の方法“ (福井希一・向井康比己・谷口研至 編ISBN0-88880-379-6), 養賢堂,東京, pp. 80-82 (2006)

[特許・品種] Hikarishinseiki. USDA Plant Variety Protection No. 201000072 (2013年1月査定通知)
イネ科植物を短稈化させる遺伝子および短稈イネ科植物の作出方法. PCT/JP2013/056339 (2013年3月)
イネの第2染色体にある新規の短稈遺伝子のDNAマーカー選抜法. 特許第5017653号(特願2007-084186) (2012年6月)
イネ科植物を短稈化させる遺伝子および短稈イネ科植物の作出方法. 特願2012-77453 (2012年3月)
さちいっぱい. 農林水産省種苗法品種登録出願, 稲 Oryza sativa L., 第26811号 (2012年3月)
コシ泉水. 農林水産省種苗法品種登録出願, 稲 Oryza sativa L., 第26810号 (2012年3月)
十和. 農林水産省種苗法品種登録出願, 稲 Oryza sativa L., 第26480号 (2011年11月)
イネの第3染色体にある新規の短稈晩生遺伝子のDNAマーカー選抜方法. 特願2011-204948 (2011年9月)
ミニヒカリ. 農林水産省種苗法品種登録, 稲, 第19985号 (2010年10月)
短稈コシヒカリ型の水稲品種ヒカリ新世紀のDNA識別法. 特願2009-160119, (2009年7月)
Revolver-2: a novel transposon-like element from rye. United States Patent 7,351,536B2 (2008年4月)
新規なトランスポゾン様因子. 特許第4092404号(特願2003-307234) (2008年3月)

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